安土桃山時代の瓦屋根はなぜ城を飾ったのか?「権威の屋根」を技術者が解説

安土桃山時代の瓦屋根はなぜ城を飾ったのか? 日本の屋根の進化|一般施主向けコラム

城郭の瓦屋根が武士の権力を示す象徴になった安土桃山時代

〜安土城・大坂城の屋根に求められた革新性と権威の象徴〜

飛鳥時代に仏教とともに日本へ伝わった瓦屋根は、奈良時代には国家事業である寺院建築に使われ、平安時代には貴族文化の発展とともに檜皮葺など多様な屋根へ発展していきました。

そして今回のコラムは安土桃山時代。

戦乱の世を勝ち抜いた武将たちは、それまでの「戦うための城」ではなく、自らの権威を示すための壮大な城を築き始めます。

その天下人の象徴となったのが城郭における瓦屋根でした。

今回は、織田信長や豊臣秀吉が築いた名城を通して、安土桃山時代の瓦屋根が持っていた意味について見ていきましょう。

1.戦国時代の城は瓦屋根ではなかった

現在、私たちが思い浮かべるお城には瓦屋根が載っています。

しかし戦国時代のお城には瓦屋根は使われていなかったと言われています。

当時の城の多くは山城や砦であり、堀や土塁、木柵を中心とした軍事施設でした。

建物も簡素なもので、屋根は板葺きや杮葺きが一般的だったと考えられています。

城に求められていたのは豪華さではなく防御力です。

敵の侵攻を防ぐことが第一目的だったため、後の時代のような壮麗な天守閣はまだ存在していませんでした。

戦国時代のお城は、櫓(やぐら)で見張りをしたり、武器を保管したりしていました。

天守閣のようなイメージではなく木造の小屋で、実用性重視の地味な外観でした。

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図:戦国時代の山城のイメージ

2.織田信長が変えた城の常識

城の歴史を大きく変えたのが織田信長の安土城です。

1576年に築城が始まった安土城は、それまでの城とはまったく異なる存在でした。

巨大な天守、高い石垣、豪華な装飾、そして屋根には瓦が使われました。

信長は城を単なる軍事施設ではなく、自らの権威を示す政治的シンボルとして活用したのです。

安土城は山の上に豪華な天守を構え、そのふもとに本格的な城下町を作るスタイルの先駆けであり、「山城」の最終形態だったと言われています。

ちなみに、信長は「天守」を「天主」と書いていたようです。

自らのことを「天主」であると言いたかったのかもしれません。

安土城の天守(天主)の特徴のひとつが八角形の階です。

現在の復元研究では、法隆寺夢殿のような八角堂建築との関連が指摘されています。

夢殿は聖徳太子を追慕するために建立された特別な建築であり、八角形は古くから宗教的・象徴的な意味を持つ形と考えられてきました。

信長は寺院建築に使われていた神聖な意匠を城に取り入れることで、自らの権威を天下へ示そうとしたのかもしれません。

当時の人々が安土城を見上げたとき、その巨大な瓦屋根は「天下人の力」を象徴する存在として映ったことでしょう。

そして天守閣(天主閣)には瓦屋根を使っています。

しかもただの瓦ではなく金箔瓦を使ったとされています。

発掘調査では金箔を施した瓦も出土しており、その豪華さがうかがえます。

信長は、安土城の天守閣を天下統一の象徴、権威の象徴にしていました。

奈良時代に国家権威の象徴として瓦屋根が使われていたように信長は権威の象徴として瓦屋根を使ったと考えられます。

ただの瓦ではなく金箔瓦を使ったのは信長の革新性だったのではと思います。

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図:安土城の復元CG

※ 安土城は焼失しているため、復元には諸説があります。

戦乱の世を統一するには、類稀なるリーダーシップと常識を覆す革新性が必要でした。

天下人となった信長は、自分が絶対的な存在として神のように君臨し、頂上から見降ろす姿を安土城に投影したのかもしれません。

3.瓦屋根は天下人の権威の象徴だった

安土城の後、豊臣秀吉の大坂城や各地の近世城郭でも瓦屋根が広く採用されるようになります。

瓦屋根は奈良時代における仏教建築の象徴から、武士の権力を示す象徴へと発展していったのです。

豊臣秀吉の大坂城も信長の安土城と同様に「天下人の権威」を見せるために巨大な天守を作り、屋根に瓦を載せました。

外壁が黒い漆喰(黒漆)で塗られ、屋根の端(軒先)や、鬼瓦、棟などの目立つ部分にだけ、赤漆を塗った上に金箔を貼った「金箔瓦(きんぱくがわら)」を並べ、豪華さを演出していたようです。

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図:大坂城の復元CG

※ 大坂城は焼失しているため、復元には諸説があります。

信長の安土城が「最終形態の山城」だったのに対し、秀吉の大坂城は「究極の平城」でした。

大坂城は交通の要所である広大な平地(上町台地)に築かれました。

山のような防御力はありませんでしたが、淀川や大和川を天然の堀として利用し、更に人工の巨大な水堀(みずぼり)を何重にも巡らせることで、防御力を生み出した、都市型城郭です。

数万人の軍勢を飲み込む「総構え」の先駆けで、本丸・二の丸・三の丸と、同心円状にぐるぐると巨大なエリア(曲輪)を広げていきました。

城の中にすべての家臣団の膨大な屋敷を取り込み、さらに商人の町まで巻き込んで、城全体を一つの巨大な「軍事防衛都市」としてパッケージしました。

このスタイルが江戸城などのベースになったようです。

4.城を守った瓦屋根の技術

安土城、大坂城以降の城で権威の象徴として使われた瓦屋根ですが、城の屋根材として瓦は機能的にもマッチしていました。

瓦は耐火性、耐久性が高いという大きな特徴があります。

木造建築が中心だった時代において、火災は城にとって最大級の脅威でした。

また瓦屋根は風雨に強く、長期間にわたり建物を守ることができます。

さらに鬼瓦や鯱などの装飾も発展し、機能と意匠を兼ね備えた屋根文化が生まれました。

その城郭建築で歴史的に重要な城として国宝 松本城があります。

現在の大天守は1593年から1594年頃に建てられたと考えられており、安土桃山時代の城郭建築の特徴を今に伝える貴重な建物です。

この国宝 松本城の写真は、国宝 犬山城がある犬山市に住む友人が撮影したものです。

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写真:国宝 松本城

黒漆塗りの外壁と灰色の瓦屋根による力強い外観から、「烏城(からすじょう)」の愛称でも知られています。

戦国時代の山城が実用性を重視した簡素な軍事施設だったのに対し、松本城のような近世城郭では、権威を示す壮大な天守が建てられるようになりました。

松本城の屋根には本瓦葺きが用いられています。

本瓦葺きは平瓦と丸瓦を組み合わせる伝統的な工法で、飛鳥時代に日本へ伝来して以来、寺院や城郭など格式の高い建築物に採用されてきました。

現在の松本城に葺かれている本葺き瓦は焼成後に薫化させて炭素被膜を蒸着させる「いぶし瓦」ですが、創建当時はまだ「いぶし瓦」の製法が完成されていなかったようです。

創建当時は、灰瓦と呼ばれている「いぶし瓦」の祖先のような瓦が葺かれていたと考えられています。

この灰瓦の製法は、織田信長が安土城を築く際に明国から招いた職人によってもたらされた技術が起源とされ、現代のいぶし瓦へ発展する技術の原点になったと言われています。

黒漆塗りの壁と灰色の灰瓦によって構成された姿は、豪華さよりも武士らしい力強さを感じさせます。

5.まとめ:安土桃山時代から瓦屋根が武士の権威の象徴になった

今回のコラムのポイントは次です。

    安土桃山時代は、日本の城郭建築が大きく発展した時代

    織田信長の安土城、豊臣秀吉の大坂城は、天下人としての権威をあらわす存在だった

    天守閣の瓦屋根は武士の権威の象徴として使われた

    安土桃山時代に「いぶし瓦」の祖先にあたる灰瓦が明から伝わった

飛鳥時代には寺院を守り、奈良時代には国家権力を支えた瓦屋根は、安土桃山時代になると武士の権威を表す存在へと進化したのです。

現在も各地の城郭で見ることができる瓦屋根には、天下統一を目指した武将たちの夢と技術が受け継がれています。

 

これからも、この屋根コラムで後悔しない屋根材選びをするために、日本の屋根の歴史や技術、そして未来について、出来るだけ分かりやすく発信していきたいと思います。

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筆者紹介

ルーフ エンジニア 小栗
甍エンジニアリング株式会社 代表取締役社長/屋根発明家/「タイルーフ」開発者

屋根の技術に携わり37年。

これまで多くの屋根材を開発してきた屋根技術者で防災平板瓦を発明し日本の発明家46位にランキングされた経歴がある。

これから家を建てる方、屋根のリフォームを考えている方に、屋根に興味を持ってもらい、後悔しない屋根選びをして欲しいという思いから「屋根コラム」の執筆をスタートした。

出来るだけ分かりやすく科学的な根拠を持った屋根コラムを心がけている。

屋根に関する様々なことを定性的、定量的に捉え、屋根の技術者として「こだわりの屋根コラム」を高い熱量で執筆している。

1966年10月生まれ・天秤座・O型。

趣味は音楽制作・楽器演奏・歌唱。バンドではベース、ボーカル等を担当。演奏楽器はギター、キーボード、ハーモニカ、ウクレレ、三線など多岐にわたるマルチプレーヤー。楽曲製作では、作詞、作曲、アレンジ、打ち込み、演奏、録音、ミックス、マスタリングと全ての制作プロセスを一人で行う。

好きなミュージシャンはプリンス、XTC、コステロ、デビッドボウイ、カーズ、ELO、EW&F、佐野元春、大滝詠一、坂本龍一、YMO、山下達郎、星野源など多数。

ルーフ エンジニア 小栗

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