軒ゼロ住宅で緩勾配の片流れ金属屋根の令和時代
〜高気密高断熱の軒ゼロ住宅が令和のトレンド〜
令和の住宅街を歩くと、ひと昔前の日本の住宅とは大きく景色が変わったことに気付きます。
瓦屋根が連なる街並みは少なくなり、軒の出、破風の出が無い軒ゼロ住宅が増えました。
また、無駄を省き、シンプルでスタイリッシュなフォルムのキュービック住宅も増えています。
昭和、平成でのキュービックデザインでは、陸屋根の屋上はシート防水が基本でしたが、令和のキュービックデザインでは立平で0.5寸勾配(屋根角度3度)の片流れ屋根が基本になっています。
令和に入って現在までの屋根のトレンドを屋根技術者の視点から解説します。
1.屋根があっても屋根が見えない超緩勾配の立平屋根
令和の屋根材のトレンドは、平成時代の後半からトップシェアとなった金属屋根材の普及が更に加速し、瓦が減って金属屋根材が増えるという形でシェアが推移しています。
令和では住宅デザインは、シンプルでスタイリッシュな外観が好まれています。
シンプルデザインの住宅外観では、壁が強調され屋根は目立たないというスタイルです。
最も多いのは、0.5~1寸勾配の片流れ屋根です。
軒の出、破風の出は無く、外壁が屋根まで立ち上がっていて、屋根は見えずに陸屋根のような意匠になります。
次の写真は緩勾配の片流れ屋根の住宅です。
令和の住宅では外観デザインの主役が屋根ではなく壁になっていると感じます。
軒の出や破風を無くした軒ゼロ住宅が増え、建物全体を一つの箱として見せるデザインが主流になっています。
外壁には大型サイディングやタイル、塗り壁調仕上げが採用され、住宅メーカー各社は壁の質感や色彩で個性を競っています。
かつての住宅では、瓦屋根の色や形が住宅の印象を決定していました。
しかし令和の住宅では、屋根は目立たない存在となり、壁が住宅デザインを支配する時代になりました。
次の写真はキュービック住宅の写真です。
屋根が存在を消し、壁が住宅の意匠の主役になっています。
シンプルデザインの住宅で次に多いのは、軒の出、破風の出が無い切妻屋根です。
切妻のフォルムだけ残して妻壁を見せる意匠です。
次の写真は軒ゼロの切妻屋根の住宅です。
この妻壁を見せるのはヨーロッパの古い町並みにも見られます。
妻壁を見せる伝統的な意匠を現代風にアレンジした住宅デザインです。
ヨーロッパの妻壁を見せる町並みは次のような町並みです。
立平における適用勾配は0.5寸勾配以上であり、陸屋根のような意匠が得られます。
0.5寸勾配は屋根角度にすると2.9°です。昭和、平成では水勾配3°は、シート防水の勾配でしたが、令和では屋根の流れ面をジョイント無しで施工する立平を使います。
立平は、屋根材の戻り勾配も無く、屋根面の勾配のまま施工することが出来ます。
令和でシート防水を使わずに金属屋根材の立平が使われるのは、コスト面で金属屋根材の立平の方が有利だからです。
立平の方がシート防水より、初期費用だけでなくメンテナンスサイクルも長くなるためメンテナンスコストを抑えられることが出来ます。
住宅外観のトレンド推移は、住宅金融支援機構の屋根形状の推移でも分かります。
次のデータは住宅金融支援機構の令和5年住宅仕様調査報告における屋根形状です。
令和5年の屋根形状では片流れと段違い屋根を足すと半数以上が片流れ形状であることが分かります。
住宅の8割以上が片流れと切妻になっているのが令和の屋根形状の特徴だと思います。
飛鳥時代から続いてきた「屋根を見せる住宅」から、「屋根を隠す住宅」へ。
令和は日本の住宅史の中でも大きな転換点と言えるでしょう。
2.平成から令和への屋根材シェア推移
住宅金融支援機構の令和5年住宅仕様調査報告における屋根材シェアデータを見ながら平成から令和に至るまでのシェアの推移をみていきたいと思います。
平成7年は化粧スレートがトップシェアであり、次に瓦屋根でした。
平成11年では平板瓦が化粧スレートや金属屋根材のシェアを取り始め、シェアを上げていきます。
平成14年には化粧スレートのノンアスベスト化によるトラブルもあり、平板瓦がトップシェアになります。
その後は、リーマンショックもあり住宅のローコスト化が進み、化粧スレートがシェアを戻し始めます。
そして平成23年の東日本大震災を契機に平板瓦が減少し、金属屋根材が増え始めます。
平成29年にはトップシェアになり、令和5年では50%以上のシェアまで伸び、この動きは現在も続いています。
昭和では屋根の主役だった瓦屋根は、令和5年では11%までシェアを落としました。
今や屋根の9割が軽い屋根であり、軽いことが屋根の基本スペックとして定着していると感じます。
次のデータは地域別の屋根材シェアです。
首都圏だけは化粧スレートがトップシェアですが、それ以外の地域は全て金属屋根材がトップシェアとなりました。首都圏で化粧スレートがトップシェアなのは、パワービルダーのコスト重視による屋根材選択と複雑な屋根形状に対する化粧スレートの施工性が理由だと思います。
また瓦の聖地といわれていた愛知県を含む東海地域では、瓦屋根のシェアは全国平均と同じ11%でした。
北陸はもともと瓦屋根が非常に多い地域でした。日本海から海塩粒子が飛散するため金属屋根材は塩害が発生するリスクが高い地域ですが、瓦屋根のシェアが減り、金属屋根材のシェアが高くなっています。能登半島地震の影響もあり、今後は更に金属屋根材の採用が増える可能性があります。
令和の屋根は、日本全国、例外なく軽いことが最優先されていると言えます。
3.高気密高断熱住宅では外装材や家の周りの温度が高い
令和住宅の大きな特徴が高気密高断熱化です。
令和7年4月から省エネ法が改正され、原則として全ての新築住宅に「省エネ基準」への適合が義務付けられました。
この動きは、2050年のカーボンニュートラル実現に向けての義務化です。
住宅の断熱等級は1から7までありますが、今回の省エネ法改正により、断熱等級4が最低ラインになり、断熱等級1~3は新築では建てられなくなりました。
高気密高断熱の家は、高い断熱性能により冷暖房のエネルギーの使用を抑え、室内環境も快適になります。
断熱性能をあらわす値としては、建物からの熱の逃げやすさをあらわすUA値と建物への日射熱の入りやすさをあらわすηAC値があります。
断熱性能を上げるため屋根が出来ることがあります。
屋根の軒の出や破風の出を大きくすることで軒を深くし、日射を遮ることです。
弥生時代の高床式住居から行われてきた、屋根で日射を遮るという知恵は現代においても有効なのです。
しかし、住宅の室内環境が快適になった反面、住宅の断熱層により住宅内部へ侵入する熱を抑えるということは、太陽から受けた熱は、住宅の外皮である屋根や外壁などの外装材に熱が蓄積されるということです。
屋根材の塗膜において熱劣化は今まで以上に促進されると思われますし、アスファルト系の下葺き材は熱劣化が主な劣化要因になっているので、高気密高断熱の屋根における下葺き材の劣化対策などもこれからの検討課題になると思います。
また、地域の環境として見れば住宅の一つ一つがエアコンの排熱や太陽光エネルギーを蓄熱する熱源として、環境温度を上げる要因になっています。
ヒートアイランド現象により、熱帯夜が続けばエアコンは動き続け、その結果、更にヒートアイランド化が進むことに繋がるのです。
屋根材側からのヒートアイランド対策として、日射反射性能を今後もっと重視すべきではないかと考えています。
暗色系が多い屋根材ですが、明色系を屋根に使うことで日射反射性能を高め、住宅の外皮に熱がこもらないことがヒートアイランド現象対策に繋がるのではと考えています。
また、熱による屋根材の膨張収縮から屋根材の固定釘が緩んだり、抜けたりすることも考えられます。
熱の影響を受けにくい素材の屋根材を選ぶことも今後の屋根材選びにおいては重要になってくると考えています。
4.風の被害が出始めている立平屋根のリスク
金属屋根は軽量で耐震性に優れる一方、軽量なだけに風への配慮が重要になります。
近年は大型台風や線状降水帯の発生が増加し、従来より厳しい環境に住宅がさらされています。
長尺の金属屋根は日射による熱膨張と収縮を繰り返すため、固定方法や下地設計が適切でない場合には性能低下を招く可能性があります。
また、ひとたび固定部に不具合が生じると、軽量な屋根材ほど風の影響を受けやすくなります。
一般住宅で全国的に立平屋根が普及し始めてからおおよそ15年程度です。
立平を固定する釘が、熱膨張と収縮を繰り返すことで釘が緩み固定力が低下したり、釘を固定している木材が劣化することで釘の固定力が低下してしまうと、軽量であるが故に金属屋根材は飛散リスクが高まります。
また、立平の場合、屋根全体で一体化しているため、屋根の一部が飛散物で損傷を受けたり、屋根の一部が飛散してしまうと、屋根全体で補修する必要があります。
平成の後期に建てられた多くの立平屋根が、令和の今、メンテナンス時期に入り始めています。
屋根の軽量化、緩勾配屋根が進んだ令和だからこそ、「軽いこと」と「飛ばないこと」を両立する技術が重要になっています。
5.まとめ:令和の屋根の主役は金属屋根
今回のコラムのポイントは次です。
令和の屋根トレンドは片流れ屋根・緩勾配・軒ゼロ
超緩勾配を実現できる立平系金属屋根材が普及した
屋根形状の変化と金属屋根材のシェア拡大は密接に関連している
軒を深くして日射を遮ることは断熱性能向上に有効
立平屋根の経年劣化による飛散リスクは今後の課題
飛鳥時代に瓦が伝来してから約1400年、日本の屋根はその時代ごとの暮らしや社会の要請に合わせて姿を変えてきました。
令和の屋根は、軽量化、省エネ性能、そしてシンプルなデザインを追求した結果、金属屋根が主役となる時代になりました。しかしその一方で、高断熱化による熱の問題や、長尺金属屋根の経年劣化など、新たな課題も見え始めています。
屋根は単なる雨よけではなく、住宅の性能や街並み、さらには地域環境にも影響を与える重要な建築要素です。これからの屋根には、「軽いこと」「省エネであること」だけでなく、「長く安心して使えること」や「環境との調和」も求められるようになるでしょう。
令和の屋根は今も進化の途中にあります。その答えがどのような形になるのか、屋根技術者として今後も注目していきたいと思います。
これからも、この屋根コラムで後悔しない屋根材選びをするために、日本の屋根の歴史や技術、そして未来について、出来るだけ分かりやすく発信していきたいと思います。
