洋風建築になぜ瓦屋根? 明治時代に生まれた和洋折衷建築を技術者が解説

洋風建築になぜ瓦屋根? 明治時代に生まれた和洋折衷建築|一般施主向けコラム

洋風建築と和瓦の融合が始まった明治時代

〜明治時代に生まれた和洋折衷建築と瓦屋根〜

1868年の明治維新によって、日本は急速な近代化への道を歩み始めました。

鉄道や電信といった新しい技術だけでなく、西洋の建築様式も日本へと流入します。

各地に洋館や官公庁、学校、銀行などが建設され、日本の街並みは大きく変化していきました。

しかし、日本人は西洋建築をそのまま模倣したわけではありませんでした。

洋風の意匠を取り入れながらも、構造には木造技術を活用し、屋根には使い慣れた和瓦を採用しました。

こうして明治時代には、日本独自の「和洋折衷建築」が誕生したのです。

今回は、文明開化の時代に生まれた和洋折衷建築と瓦屋根の歴史について、屋根技術者の視点から解説します。

1.洋風建築と共に輸入された屋根材

明治時代になると、西洋建築とともに新しい屋根材も日本へと入ってきました。

代表的なものが天然スレートと銅板葺です。

天然スレートは薄く加工した天然石で、ヨーロッパでは古代ローマ時代から使われてきた屋根材です。

重厚感のある外観と高い耐久性を持ち、洋館との相性が良いことから、日本でも洋風建築で採用されました。

この天然スレートですが、中世ヨーロッパでは教会や王族の建物に使われ、権威の象徴でした。

当時の天然スレートはすべて手作業で切り出し、馬車で運んでいたと言われています。

瓦と同様に重量物なので運搬にはコストが掛かり、非常に高価でした。

手作り、高価、重量物で運搬が大変、権威の象徴といった所は、奈良時代の瓦屋根と同じですね。

ちなみに、この天然スレートがヨーロッパで一般的な屋根材になるのはこの明治時代と同時代の19世紀です。

産業革命後に運搬コスト、採掘コストが下がり、耐久性と耐火性能の高さから多くの住宅で使われ一般的な屋根材になりました。

明治時代に輸入された天然スレートは、当時の西洋建築を代表する屋根材だったのです。 また、銅板葺も明治時代に普及し始めました。

足尾銅山や別子銅山などで大鉱脈が発見され、銅の生産量が劇的に跳ね上がったのが明治時代です。

銅のコストが下がったことに加え、西洋から大型の圧延機を導入したことで、均一な厚みの銅板が、安く大量に作れるようになりました。

その結果、明治時代になって銅板葺が洋風建築の屋根材として使われるようになったのです。

明治時代の洋館として旧岩崎邸庭園の洋館は、その建築事例のひとつです。

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写真:旧岩崎邸庭園 洋館の屋根

英国人建築家ジョサイア・コンドルが設計したこの建物には天然スレートが葺かれており、当時の本格的な西洋建築を見ることができます。

この洋館の屋根ですが、平部分は天然スレート葺ですが、棟は銅板で役物を作って納めています。天然スレートと銅板のハイブリッド屋根ですね。

銅の加工性の良さと耐久性の高さから、棟部の防水に銅板を採用したのではないかと思います。

ヨーロッパよりも雨の多い日本では、棟部の防水性能を高めるために非常に有効な納め方だと思います。

このように明治時代は、海外から新しい屋根材や製造技術が次々と日本へもたらされた時代だったのです。

2.洋風建築と瓦屋根

しかし、明治時代の建築物の屋根がすべて天然スレートや銅板になったわけではありません。

実際には、多くの洋風建築で和瓦が使われていました。

その理由のひとつが、屋根材の調達です。

天然スレートのような重量物を海外から大量に輸入することは、当時の物流事情を考えると容易ではありませんでした。

一方、日本にはすでに瓦の生産技術と供給体制、施工体制が整っており、全国各地の窯元で瓦が製造され、全国各地の瓦職人により瓦屋根が作られていました。

さらに、和瓦は耐久性や防火性能に優れるだけでなくR形状で排水性能も高く、雨の多い日本の気候にも適した屋根材です。

そのため、日本人は洋風建築において、西洋建築のデザインを取り入れながらも、屋根には輸入屋根材よりも、入手が容易であり、コストが安く、日本の気候にもマッチし、実績が豊富な和瓦を採用したのです。

長崎のグラバー邸もその代表例であり、洋風建築でありながら和瓦が美しく調和しています。

グラバー邸は1863年(文久3年)に建てられた、現存する日本最古の木造洋風建築です。

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写真:現存する日本最古の木造洋風建築 グラバー邸

グラバー邸の寄棟屋根は、のし瓦の段数を減らし、棟を低くして小さな鬼瓦を使い、三又部には「鳥休み」という瓦を使って、和瓦なのに洋風なデザインを演出しています。

西洋建築なのに日本的な魅力を感じてしまうのは日本の瓦屋根の力だと思います。

ちなみに、ヨーロッパの瓦屋根にも鳥のオーナメントがあります。

瓦屋根に鳥は、万国共通なのかもしれません。

3.和と洋が混じりあう和洋折衷の誕生

明治時代の建築を特徴づける言葉に「和洋折衷」があります。

西洋建築を学びながらも、日本人は独自の建築文化を生み出しました。

建物の外観は洋館でありながら、

• 構造は木造

• 屋根は和瓦

• 施工は日本の大工

という建築が全国で数多く建設されたのです。

長崎グラバー園に現存する旧三菱第2ドックハウスも、その代表例といえるでしょう。

ベランダや窓のデザインは洋風ですが、屋根には日本のいぶし瓦が使われています。

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写真:旧三菱第2ドックハウス 明治29年 建設

まるで洋服にブーツを履きながら日本刀を差した坂本龍馬のように、明治時代の建築もまた、日本と西洋の文化が共存する姿を表していました。

こうして誕生した和洋折衷建築は、日本独自の近代建築として発展していくことになります。

4.工部省営繕課が生んだ引っ掛け桟瓦

明治時代は西洋建築を取り入れた時代として語られることが多いですが、日本の瓦もまたこの時代に進化しました。

その瓦は「引っ掛け桟瓦」です。

従来の和瓦に、瓦を屋根下地へ引っ掛けるための突起を設けたものです。

この突起は剣のように突き出ているので「尻剣(しりけん)」とも呼ばれています。

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図:引っ掛け桟瓦の図

この引っ掛け機構によって、

• 施工性の向上

• 瓦のずれ防止

• 耐震性の向上

が実現されました。

この瓦は明治10年(1877年)頃に工部省営繕課によって考案されたと伝えられており、明治18年には海外博覧会にも出品されたとされています。

後に関東大震災を契機として全国へ普及していきますが、その原点は明治時代の技術開発にありました。

文明開化の陰で、日本の瓦技術もまた着実に進化していたのです。

この引っ掛け桟瓦は、現在の瓦屋根工法にもつながる重要な技術革新だったのです。

ちなみにこの「引っ掛け桟瓦」という名前ですが、屋根下地の「瓦桟木」に「尻剣」を引っ掛けて施工するので「桟瓦」と言われている訳ではありません。

江戸時代に西村半兵衛が発明して開発した和瓦が、遠くから見たときに「障子の木枠(桟)」のように美しく見えたことから、「桟瓦」と呼ばれるようになったと言われています。

5.まとめ:明治時代で生まれた和洋折衷建築と瓦屋根

明治時代で生まれた和洋折衷建築と瓦屋根

    明治時代に入り、天然スレートや銅板葺が葺かれるようになった

    明治時代の日本は、西洋建築に瓦屋根を組み合わせ、日本独自の洋風建築を生み出した

    西洋建築に木造技術や和瓦を入れ込むことで和洋折衷建築が生まれた

    工部省営繕課が、施工性、耐震性能を向上させた「引っ掛け桟瓦」を発明した

明治時代になり、西洋建築が日本に入ってきました。

しかし、日本人はそれをそのまま受け入れるのではなく、日本の気候や建築技術に合わせ、木造技術、和瓦を取り入れ、西洋建築と瓦屋根が融合することで、日本独自の和洋折衷建築を生み出したのです。

さらにこの時代には、引っ掛け桟瓦のような新しい瓦技術も生まれました。

明治時代は、西洋建築を学んだ時代であると同時に、日本の屋根技術が新たな発展を遂げた時代でもあったのです。

 

これからも、この屋根コラムで後悔しない屋根材選びをするために、日本の屋根の歴史や技術、そして未来について、出来るだけ分かりやすく発信していきたいと思います。

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筆者紹介

ルーフ エンジニア 小栗
甍エンジニアリング株式会社 代表取締役社長/屋根発明家/「タイルーフ」開発者

屋根の技術に携わり37年。

これまで多くの屋根材を開発してきた屋根技術者で防災平板瓦を発明し日本の発明家46位にランキングされた経歴がある。

これから家を建てる方、屋根のリフォームを考えている方に、屋根に興味を持ってもらい、後悔しない屋根選びをして欲しいという思いから「屋根コラム」の執筆をスタートした。

出来るだけ分かりやすく科学的な根拠を持った屋根コラムを心がけている。

屋根に関する様々なことを定性的、定量的に捉え、屋根の技術者として「こだわりの屋根コラム」を高い熱量で執筆している。

1966年10月生まれ・天秤座・O型。

趣味は音楽制作・楽器演奏・歌唱。バンドではベース、ボーカル等を担当。演奏楽器はギター、キーボード、ハーモニカ、ウクレレ、三線など多岐にわたるマルチプレーヤー。楽曲製作では、作詞、作曲、アレンジ、打ち込み、演奏、録音、ミックス、マスタリングと全ての制作プロセスを一人で行う。

好きなミュージシャンはプリンス、XTC、コステロ、デビッドボウイ、カーズ、ELO、EW&F、佐野元春、大滝詠一、坂本龍一、YMO、山下達郎、星野源など多数。

ルーフ エンジニア 小栗

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