粘土瓦は陶器瓦と違うのか?
― 製法による分類と形状による分類で粘土瓦の特徴を知る ―
日本の屋根材と聞いて、まず「瓦」を思い浮かべる人は多いのではないでしょうか。
瓦は、飛鳥時代に大陸から伝わり、日本で約1400年にわたって使われてきた歴史の長い屋根材です。
しかし、ひとことで瓦といっても、「粘土瓦」「陶器瓦」「いぶし瓦」「和瓦」「平板瓦」「S瓦」など、さまざまな呼び方があります。
私も仕事の中で、
「粘土瓦と陶器瓦は違うものですか?」
と聞かれることがあります。
実は、これらの名称が分かりにくい理由のひとつは、瓦の製法による分類と、形状による分類が混在して使われていることにあります。
例えば「陶器瓦」は製法に関係する呼び方ですが、「和瓦」や「平板瓦」は形状による呼び方です。
そこで今回は、瓦の名称を整理しながら、製法による分類と形状による分類という2つの視点から、粘土瓦がどのような屋根材なのかを見ていきたいと思います。
1.1400年の歴史を持つ粘土瓦
日本に瓦が伝わったのは、今から約1400年前の飛鳥時代です。
大陸から仏教とともに瓦を作る技術が伝わり、当初は寺院などの建築物を中心に使われていました。
その後、瓦は長い時間をかけて日本の建築に定着していきます。
特に普及が進むきっかけとなったのが、江戸時代にたびたび発生した大火です。
当時の建物には木材や草など燃えやすい材料が多く使われていたため、火災が発生すると広い範囲に燃え広がりました。そのため、防火対策として瓦屋根が注目されるようになり、次第に庶民の建物にも普及していきます。
明治時代以降になると瓦の生産技術も発達し、住宅の屋根材としてさらに広く使われるようになります。
そして昭和に入って住宅が大量に建設される時代になると、瓦は日本を代表する屋根材のひとつとして全国に普及しました。
現在では金属屋根や化粧スレートなど、さまざまな屋根材が使われていますが、粘土を焼いて屋根材を作るという技術は、日本で約1400年もの間受け継がれてきたことになります。
これほど長い期間にわたって使われ続けてきたこと自体が、粘土瓦という屋根材の大きな特徴のひとつといえるでしょう。
2.粘土瓦と陶器瓦は何が違う?
瓦にはさまざまな呼び方がありますが、まず知っておきたいのが「粘土瓦」と「陶器瓦」の違いです。
粘土瓦は、その名前のとおり粘土を原材料として成形し、乾燥させた後、高温で焼いて作られる屋根材です。
日本産業規格(JIS)では「粘土がわら」という名称が使われており、大きく「釉薬がわら」と「無釉がわら」に分類されています。
このうち、瓦の表面に釉薬を施して焼いたものが「釉薬瓦」です。
釉薬とは、瓦を焼く前に表面に塗る材料で、焼成することによって表面にガラス質の層を作ります。この釉薬を使って作られた瓦が、一般に「陶器瓦」と呼ばれています。
つまり、
粘土瓦 = 陶器瓦
ということではありません。
陶器瓦は、粘土瓦という大きな分類の中に含まれる釉薬瓦の呼び方のひとつです。
一方、釉薬を使用しないものが「無釉瓦」です。
無釉瓦には、粘土そのものの色を生かして焼き上げる素焼瓦や、焼成工程で瓦の表面に炭素の膜を形成させる「いぶし瓦」などがあります。
世界的に見ると素焼きの瓦も多く使われていますが、日本では釉薬を使った陶器瓦が広く普及しています。
「粘土瓦」「陶器瓦」「いぶし瓦」という名称は一見すると別々の屋根材のように感じますが、製法による分類として整理すると、その関係が分かりやすくなります。
3.和瓦・平板瓦・S瓦は形による分類
粘土瓦には、製法による分類とは別に、瓦の形状による分類があります。
代表的なものが「和瓦」「平板瓦」「S瓦」です。
和瓦は、日本の伝統的な瓦屋根に多く使われている、波形の形状をした瓦です。山と谷が連続する独特の形状によって、瓦屋根らしい陰影のある外観を作ります。
一方、平板瓦はその名前のとおり、表面の凹凸を抑えた比較的フラットな形状の瓦です。和瓦に比べてすっきりとした外観になるため、洋風住宅やモダンなデザインの住宅にも多く使われています。
S瓦は、瓦の断面がS字形になった瓦です。大きな波形による立体感があり、洋風住宅などで使われています。
ここで少し分かりにくいのが、「陶器瓦」と「和瓦」「平板瓦」「S瓦」は、同じ基準で分類された名称ではないということです。
「陶器瓦」は釉薬を使って作られた製法による呼び方であるのに対し、「和瓦」「平板瓦」「S瓦」は形状による呼び方です。
そのため、陶器瓦で作られた和瓦もあれば、陶器瓦で作られた平板瓦やS瓦もあります。
瓦には製法と形状という異なる分類方法があり、それぞれの名称が日常的に使われているため、少し複雑に感じてしまうのです。
しかし、「何で作られ、どのように焼かれているのか」と「どんな形をしているのか」を分けて考えると、瓦のさまざまな呼び方が整理しやすくなります。
4.粘土を高温で焼いて作る高耐久な屋根材
粘土瓦は、その名前のとおり粘土を主原料として高温で焼いて作られる屋根材です。
釉薬瓦の場合は、粘土を瓦の形に成形した後、
成形 → 乾燥 → 施釉 → 焼成
という工程を経て製品になります。
焼成温度は、使用する粘土の性質や産地によって異なります。粘土にはそれぞれ耐火度の違いがあるため、その性質に合わせた温度で焼成する必要があるからです。
日本で最も多く瓦を生産している愛知県の三州瓦では、およそ1130℃という高温で焼成されています。
高温で焼き締められた粘土瓦は陶器質となりますが、瓦の素地には4~10%程度の吸水率があります。
一方、陶器瓦の表面を覆っている釉薬は、焼成することでガラス質の層になります。このため、釉薬部分は基本的に水を通しません。
また、陶器瓦には黒や銀、茶色、青色など、さまざまな色があります。
これらの色は、塗料を表面に塗って着色しているのではありません。釉薬に含まれる金属原料が焼成時に酸化反応することで発色しています。
焼成によって非常に安定した状態で発色しているため、塗装された屋根材のように紫外線によって塗膜が劣化し、色が変わっていくことが基本的にありません。
このように粘土瓦は、素材そのものが非常に高い耐久性を持っていることが大きな特徴です。
その一方で、粘土を焼いて作るため屋根材としては重量が重いというデメリットがあります。
日本では大きな地震が相次いだこともあり、住宅の耐震性に対する意識が高まる中で、軽量な金属屋根材などが選ばれるケースが増え、粘土瓦は以前に比べてシェアを落としています。
高い耐久性を持つ一方で重量が大きい。
この材料としての特徴を理解することが、粘土瓦という屋根材を知るうえで重要なポイントです。
5.まとめ:製法と形状を知れば、瓦の呼び方が分かる
今回のコラムのポイントです。
- 瓦は飛鳥時代に大陸から伝わり、日本で約1400年使われてきた歴史の長い屋根材
- 粘土瓦は製法によって「釉薬瓦」と「無釉瓦」に分類され、一般に陶器瓦と呼ばれているものは釉薬瓦
- 「和瓦」「平板瓦」「S瓦」は製法ではなく、瓦の形状による呼び方
- 釉薬瓦は「成形 → 乾燥 → 施釉 → 焼成」という工程を経て製造される
- 高温で焼成された粘土瓦は高い耐久性を持ち、釉薬による色は紫外線による変色が基本的に発生しない
- 粘土瓦は高耐久な一方、屋根材として重量が重いという特徴がある
「粘土瓦」「陶器瓦」「いぶし瓦」「和瓦」「平板瓦」「S瓦」など、瓦にはさまざまな呼び方があります。
一見すると複雑ですが、製法による分類なのか、形状による分類なのかを分けて考えると、その違いが分かりやすくなります。
そして粘土瓦は、単に昔から使われている伝統的な屋根材というだけではありません。
粘土を成形し、高温で焼成することで作られる陶器質の素材であり、釉薬によって表面にガラス質の層を作るなど、材料と製造方法そのものが高い耐久性につながっている屋根材です。
一方で、重量が重いという材料上の特徴もあります。
屋根材を選ぶときには、「瓦だから良い」「重いから悪い」と単純に考えるのではなく、それぞれの屋根材がどのような材料から、どのように作られ、どのような特徴を持っているのかを知ることが大切です。
次回は、現在の住宅で広く使われている屋根材のひとつ、「化粧スレート」について詳しく見ていきます。
