台風から家を守る屋根(前編)
〜台風で屋根材が飛散してしまう理由〜
1.近年の気象変化による台風の大型化と住宅被害
近年、日本に上陸する台風は大型化・強力化する傾向にあります。地球温暖化の影響により海面水温が上昇し、台風が勢力を維持したまま上陸するケースが増えているためです。
その象徴的な事例が、2018年の台風21号や2019年の台風15号です。これらの台風では、最大瞬間風速50m/sを超える暴風が各地で観測され、多くの住宅で屋根材の飛散や外装の破損が発生しました。
特に2019年の台風15号では、千葉県を中心に広範囲で屋根被害が発生し、長期間にわたる停電や雨漏り被害が社会問題となりました。
屋根材が飛散すると、住宅は一気に無防備な状態になります。
本来、屋根が担っている「雨風を防ぐ機能」が失われることで、建物内部への雨水の侵入が始まり、天井や壁、さらには構造躯体の劣化へと被害が拡大していきます。
結果として、単なる屋根の破損にとどまらず、住宅全体の性能低下につながるのです。
屋根が飛ぶ現象は、風の力によって引き起こされます。 「風から家を守る屋根」で詳しく解説しています。
屋根材が飛散すると、防水性能も失われ、雨漏りの原因となります。 「雨から家を守る屋根」も参考になります。
また、屋根の耐久性が低下していると、台風時の被害が大きくなります。 「屋根で変わる家の耐久性」もあわせてご覧ください。
2.台風によって発生する屋根面への負圧は風速で変わる
台風時に屋根材へ作用する力は、負圧になります。
これは屋根コラムの第1章4.風から家を守る屋根にも書いた通り、風が壁面や屋根面に当たり、上向きに方向を変えることで屋根表面に負圧が発生します。
台風の場合は、風速が早いので発生する負圧も強力です。
風速と負圧(速度圧)は次の式の関係にあり、風速から屋根面に作用する負圧を算出することが出来ます。
上記式のErは環境係数といって、屋根高さと地表面の状態(地表面粗度区分)で変わるパラメーターです。
風速と負圧(速度圧)の関係は、負圧が風速の2乗で変わる為、風速の変化に対して負圧の変化はかなり大きな変化になります。
例えば、風速10mの強風と風速60mの台風を比べた場合、風速が6倍になると、屋根にかかる負圧の力は36倍になり、全く別次元の力が屋根に作用するのです。
台風が大型化すればするほど、屋根材にかかる負圧は大きくなり、屋根材の固定耐力を越える風速になれば屋根材は飛散してしまいます。
3.屋根の端部に台風の被害が集中する理由
私が過去に実際に現場を回った屋根の台風被害調査では、屋根の端部に被害が集中していました。
屋根の中心部は残っているのに棟やケラバ、軒先だけがめくれたり、飛散しているケースが非常に多く見られました。
この調査結果は、建設省告示第1458号のピーク風力係数の設定とも合致しており、屋根周辺部に強い風圧力が発生し、その結果、屋根材の飛散が発生していると推察が出来ます。
では、屋根面のうち、中心部と周辺部でどの程度の風圧力の差があるのでしょうか?
建築基準法では、建設省告示第1458号にピーク風力係数として屋根部位ごとの係数が記載されています。
ざっくり言うと屋根面の中心部が1だと屋根周辺部は1.3~2倍程度となります。
告示第1458号が平成12年に制定されるタイミングで、建築研究所、日本風工学会が中心となって行った実棟を使った屋根に掛かる風圧測定実験に参加したことがありますが、その風圧測定結果は、告示第1458号のピーク風力係数とかなり近い値であり、告示第1458号のピーク風力係数の妥当性が確認したことがあります。
そのピーク風力係数を用いて屋根部位毎の負圧を次の式で算出することが出来ます。
ピーク風力係数(告示ではピーク外圧係数と表記)は下表の値を勾配毎に線形補正して使用します。
4.瓦が台風の負圧で飛散するメカニズム「てこの原理」
2018年の台風21号や2019年の台風15号では、多くの屋根材が飛散しました。
陶器瓦、いぶし瓦、化粧スレート、金属屋根材、アスファルトシングルと全ての種類の屋根材が台風の風圧力に耐えられずに飛散していますが、その中でも最も多くの飛散被害が出たのが和瓦※です。
和瓦は、流れ方向と桁方向にそれぞれ重なりを設け、流れ方向の重なり部に和瓦を固定する釘を打ち、屋根下地に固定します。
屋根材の場合、防水性能が最も重要な性能なので、屋根材の固定を行う釘は雨水が最も浸入しにくい流れ方向の重なり部に打ちます。
釘の引き抜き強度は、1本あたり約500N/本(50kg/本)程度の固定耐力を持っていますが、屋根材の負圧が掛かる面(作用点)と屋根材の固定箇所(支点、作用点)が離れており、釘の引き抜き強度が「てこの原理」で弱められてしまい、その結果、負圧で簡単に持ち上がってしまうのです。
下の図を参照してください。
支点と作用点1に働く風圧力P1と距離L1を掛けたモーメントM1が、作用点2に働く釘の固定耐力P2と距離L2を掛けたモーメントM2よりも上回ったときに屋根材は風圧力で持ち上がります。
モーメントM1とモーメントM2が釣り合っている場合では次の式が成り立ちます。
M1=P1×L1 M2=P2×L2
P1×L1=P2×L2
和瓦の場合、風圧力が掛かる作用点1と支点との距離は約170㎜、釘の固定耐力が掛かる作用点2と支点との距離は約10㎜となります。
釘の引き抜き強度が500N/本とした場合、釣り合う風圧力P1は次式で求められます。
P1=500N×(10㎜/170㎜)=29.4N/枚
29.4Nをkgfであらわすと3kg/枚。
つまり、人が手で軽く持ち上げられる程度の力で瓦は浮き上がってしまう計算になります。
大型台風で和瓦が飛散してしまうのは「てこの原理」が働いてしまうことが原因なのです。
ちなみに、最大瞬間風速50m/sを平均屋根高さ8m、地表面粗度区分Ⅲで速度圧を算出すると q(速度圧)=-865N/㎡となります。
和瓦が1㎡あたり16枚施工するので16枚で上記速度圧を割ると54N/枚となり、釘の固定耐力の約2倍の風荷重が掛かることが分かります。
風荷重が強くなる屋根周辺部においては上記風荷重の1.3~2倍の荷重が掛かるので、釘の固定耐力を大きく上回る風荷重を受けたことになります。
つまり、2018年の台風21号や2019年の台風15号で和瓦が飛散したのは「想定外の事故」ではなく、構造的に起こるべくして起きた現象だったともいえるのです。
※和瓦は一般名称でJIS規格での名称では 「粘土瓦 J形」となります
5.まとめ:台風で屋根材が飛散してしまう理由
今回のコラムのポイントは次です。
台風の大型化に伴い屋根材が飛散してしまう被害が出ている
風圧力は風速の2乗で大きくなるので、屋根材には高い耐風圧性能が必要
屋根周辺部には大きな風圧が掛かるので飛散させないためには対策が必要
瓦は「てこの原理」で釘の固定耐力を弱められてしまう
今回は前編ということで瓦屋根の飛散対策が無いままコラムは終わってしまいますが、後編の次に書く特別編でこの「てこの原理」という弱点をどのように解決したのか。
「防災平板瓦」の着想から発明、開発までのストーリーをお伝えしたいと思います。→ 台風から家を守る屋根(特別編)
これからも、屋根コラムで後悔しない屋根材選びをするために、出来るだけ分かりやすさを心がけて科学的な根拠を持った情報をより多く発信していきたいと思います。
今回は数式などを用いたので、算数が苦手な方には嫌だったかもしれませんが、科学的なコラムを心がけておりますのでご了承ください。
実際に屋根にかかる風圧力を確認してみませんか?
建築条件を入力することで、屋根の各部位に作用する風圧力を算出し、 タイルーフの耐風性能との比較により安全性を確認することができます。
