台風から家を守る屋根(後編)
〜台風で屋根材が飛散してしまう理由〜
1.金属屋根材の台風被害
近年シェアが高まっている金属屋根材ですが、金属屋根材は単純に風に持ち上げられて飛ぶわけではありません。
金属屋根材は、屋根材の基材厚さが0.4㎜程度と薄く、強風時に屋根材が風圧によって振動し、その振動が増幅していく「フラッター現象」が発生します。フラッター現象の厄介なところは問題が風の強さだけでなく、振動が増幅するかどうかにあります。
このフラッター現象によって屋根材がバタつく状態(フラッタリング)が発生すると、固定部に繰り返し荷重が作用し、金属疲労が蓄積することで最終的には固定部の破断や屋根材のせん断破壊を引き起こし、屋根材の飛散に至ることがあります。
このフラッター現象が起きる原因は屋根面に発生する負圧です。
旗がバタバタとバタつくのもこの風圧の変化ですが、屋根上ではさらに大きな風圧の変化となります。
下図は、建物周りの風の流れと外圧変動を示したものです。
壁面に当たった風が上昇流となり、壁上端部で渦が発生するので、特に屋根面の風上端部では、剥離流により瞬間的に大きな負圧が発生します。
この“時間的に変動する負圧”こそが、屋根材を振動させる要因となります。
金属屋根材においては、単純な固定強度の問題だけではなく、屋根の破壊モードそのものが変わり、一気に飛散へとつながってしまう場合があるのです。これは静的な耐力設計では捉えきれない現象です。
金属屋根材は、瓦屋根とは強風による飛散のメカニズムが異なるので、それぞれの屋根材で十分な耐風性能を発揮するための工夫が必要になるのです。
金属屋根材では片持ち固定構造でいくら強く固定したとしてもフラッタリング現象を押さえることは出来ません。金属屋根材でフラッタリング現象を抑えるためには棟側と軒側での両端固定若しくは両端固定に近い構造にするなどの工夫が必要になるのです。
2.化粧スレート屋根材の台風被害
化粧スレートも台風により飛散被害が発生します。
化粧スレートは屋根材中央部よりやや水上側に釘止めすることで屋根に固定します。
片持ち構造ですが、屋根材同士を流れ方向で半分以上重ねることで瓦屋根より「てこの原理」を軽減させ、釘の屋根下地への留め付け固定力が風圧力を上回ることで風による飛散を防ぐ固定構造になっています。
化粧スレートの飛散メカニズムはフラッタリングが発生し、固定釘が緩み飛散するケースもあれば、屋根材本体が釘留め付け部を起点にして破断し、飛散するケースがあります。
下の図を参照してください。
釘の引き抜き強度を1本あたり約500N/本(50kg/本)とした場合、作用点1にかかる力と作用点2にかかる力をモーメント計算で算出します。
モーメントM1とモーメントM2が釣り合っている場合では次の式が成り立ちます。
M1=P1×L1 M2=P2×L2
P1×L1=P2×L2
風圧力が掛かる作用点1と支点との距離は約320㎜、釘の固定耐力が掛かる作用点2と支点との距離は約180㎜となります。
釘の引き抜き強度が1本あたり500Nとした場合、釣り合う風圧力P1は次式で求められます。
P1=500N×(180㎜/320㎜)=281N
つまり、釘の固定力よりも小さな力でも、てこの作用によって屋根材は持ち上がってしまうのです。
また、ケラバや棟などの屋根端部では、屋根形状に合わせて化粧スレートを切断加工して納めるため、充分な固定力が発揮できずに端部から屋根材のめくれが発生し、そのめくれが平部にまで波及するケースもあります。
更に、ケラバ部や棟部の納まりでは薄板鋼板(板金)で作られた屋根役物で納めるため、金属屋根材と同様に屋根役物でフラッタリング現象が発生し、屋根役物の飛散を起点として屋根材本体が飛散するケースもあり、化粧スレートの飛散の原因は様々です。
3.台風から家を守る屋根の耐久性能
屋根の性能は、新築時の状態だけで評価できるものではありません。むしろ重要なのは、長期使用環境下においてもその性能が維持されることです。
特に耐風性能に直結するのが、緊結部の耐久性です。屋根材を固定する釘やビスは、長年の使用によって徐々に固定力が低下していきます。
例えば、金属屋根材や化粧スレートでは、日射による熱膨張と収縮が繰り返されることで、固定部に微小な動きが生じ、緩みが発生します。また、屋根下地材の腐食や劣化が進行すると、固定部そのものの保持力も低下します。
このような状態で台風を迎えると、本来の耐風性能を発揮できず、屋根材の飛散につながるリスクが高まります。
また、金属屋根材や化粧スレートでは塗膜で基材を保護しているため、塗膜が劣化したまま放置をすると基材の劣化が始まります。
基材の劣化が始まると屋根材の飛散リスクはさらに高まります。
台風から家を守るためには、屋根材単体はもとより、下地材や固定部材を含めた「屋根全体」としての耐久性能が求められます。
また、屋根の耐久性が低下していると、台風時の被害が大きくなります。 「屋根で変わる家の耐久性」もあわせてご覧ください。
4.台風から家を守る屋根の施工品質
屋根の性能を左右するもう一つの重要な要素が、施工品質です。
特に注意すべきなのが屋根の端部です。軒先やケラバ、棟部などの端部は、台風時に最も大きな負圧が発生する部位であり、屋根被害の多くが“端部から始まる”のが特徴です。
これらの部位では、屋根材の加工や納まりが必要となり、施工者の技術による影響が大きくなります。固定方法や納まりが不適切であれば、局所的な弱点となり、そこから屋根全体の破損へと広がっていきます。
つまり、どれだけ高性能な屋根材を使用しても、施工品質が伴わなければ本来の性能は発揮されません。
また、施工性そのものも重要な要素です。施工が複雑であればミスの発生リスクが高まり、逆に合理的な施工が可能なシステムであれば、品質のばらつきを抑えることができます。
台風に強い屋根を作るのであれば、「屋根材料」だけでなく、「屋根の施工体制」や「施工品質」も含めて設計し、施工する必要があります。
5.まとめ:台風で屋根材が飛散してしまう理由
今回のコラムのポイントは次です。
金属屋根材はフラッター現象が始まると飛散のリスクが急拡大する
化粧スレートは新築時よりも経年劣化により飛散リスクが高まる
耐風性能は屋根材の耐久性だけでなく屋根全体の耐久性も重要
屋根の耐風性能は施工品質の影響が大きく、屋根端部の施工が悪いと飛散リスクは一気に高まる
屋根材の耐風性能は新築時の屋根材のスペックだけでは判断できません。長期使用による劣化や施工品質の影響を含め、時間軸を通して性能が維持されることが重要です。
屋根は普段目にする機会が少ない部分ですが、台風時には住まい全体の安全性を左右する最も重要な部位の一つです。見えないところで、確実に機能し続けること。
それこそが、これからの屋根に求められる本質的な価値と言えます。
新築時のスペックだけで経年劣化を考慮せずに安易に屋根材を選ぶことは、10年後、20年後に屋根材の飛散リスクが高まることに繋がることを理解してください。「屋根で変わる家の耐久性」もあわせてご覧ください。
これからも、屋根コラムで後悔しない屋根材選びをするために、出来るだけ分かりやすさを心がけて科学的な根拠を持った情報をより多く発信していきたいと思います。
今回も数式などを用いたので、算数が苦手な方には嫌だったかもしれませんが、科学的なコラムを心がけておりますのでご了承ください。
屋根材の飛散は感覚的な問題ではなく、風圧力として定量的に評価することができます。実際の屋根に作用する風圧力については、下記のページで簡易的に確認することができます。
