雨から家を守る屋根(後編)
〜屋根勾配と戻り勾配、屋根材毎の防水の仕組みや特徴を知る〜
1.屋根勾配と戻り勾配
「雨から家を守る屋根(後編)」では、勾配屋根での防水について書きます。勾配屋根では様々な屋根材を使用しますがこのコラムでは代表的な屋根材である陶器瓦、金属屋根材(縦葺き)、化粧スレートの防水の仕組みや特徴を解説します。先ず屋根材毎の防水の特徴を書く前に、勾配屋根に特有の要素である戻り勾配について説明します。
通常「屋根勾配」と呼んでいるのは、屋根下地の傾き(構造的な勾配)ですが、実は屋根勾配と屋根材の表面勾配が異なっているケースが多くあります。その原因が「戻り勾配」です。
代表的な屋根材である「陶器瓦」「金属屋根材」「化粧スレート」の中では、陶器瓦の戻り勾配が最も大きくなります。下の図をイメージしてください。
この図の陶器瓦は、現在最も多く使われているF形(平板瓦)の施工断面図です。陶器瓦F形は、軒側(頭側)の見付け高さが30mmで、流れ方向の働き寸法が280mmとなります。この図では、施工時に陶器瓦F形の表面が水平になるように描いています。
瓦の下にある青色の線が屋根下地の上面を表しますが、この線には6.12°の角度が付いています。この6.12°が「戻り勾配」です。屋根の勾配(屋根下地の傾き)よりも、屋根材表面の傾斜角度の方が緩くなっているため、「戻り勾配」と呼んでいます。
屋根材の図の下に赤色の線があり、これは「雨から家を守る屋根(前編)」で説明した分数勾配を表した線です。水平100mmに対して高さ10mmの勾配が1/10勾配、すなわち1寸勾配であり、その角度は5.71°です。
陶器瓦F形の戻り勾配は6.12°なので、1寸勾配(5.71°)よりも大きく、戻り勾配が1寸以上あることが分かります。より正確に求める場合には三角関数を使って計算しますが、tan(6.12°)=0.1072…となり、戻り勾配は約1寸7厘となります。
このように、屋根材毎の見付け高さと流れ方向の働き寸法が異なることで戻り勾配が変わり、それがそのまま屋根材の防水性能や必要な屋根勾配の違いにつながっていきます。
2.屋根材毎に異なる防水の仕組み
屋根材は、素材や製造方法の違いによって製品構造が異なり、その結果、防水の仕組みも変わります。ここでは、代表的な屋根材である陶器瓦、化粧スレート、金属屋根材について、防水の仕組みを見ていきます。
<陶器瓦>
陶器瓦の素材は、粘土と表面にコーティングされたガラス質の釉薬です。粘土の可塑性を活かして立体的な成形が可能で、粘土細工の様に立体的な形状を作ることができます。成形後、粘土中に含まれる水分(約20%)を乾燥させ、さらに窯で焼成する工程を経て陶器瓦になります。乾燥工程と焼成工程の過程で全体として約10%収縮しますが、その際に変形が生じるため、製品精度は他の屋根材と比べると劣る傾向があります。
陶器瓦の防水は、流れ方向と桁方向(横方向)の重なりによって行います。ねじれや反りなどの変形の影響で瓦同士の間にはどうしても隙間が生じるため、その隙間から入る雨水を防ぐために「水返し」と呼ばれる防波堤のような構造を設けています。粘土の可塑性を活かし、流れ方向や桁方向の重なり部分に水返しを設けることで、雨水の浸入を抑える仕組みになっています。
<化粧スレート(カラーベスト)>
化粧スレートの素材は、セメントと補強繊維に表面塗料を組み合わせたものです。補強繊維には、2000年頃まではアスベスト(石綿)が使われていましたが、健康への影響が問題となったため、その後はPVA繊維やパルプ繊維などの人工繊維に置き換えられています。移行期に出た初期のノンアスベスト製品は強度不足から施工後の割れなどが多く、社会問題にもなりました。
化粧スレートは、おおまかに言うと厚さ5~6mm程度のセメント板の表面を塗装した屋根材です。セメントと補強繊維をスラリー状にして抄造法で板状に成形し、オートクレーブ(高圧蒸気養生)によってセメントの水和反応を促進し、強度と寸法安定性を高めながら硬化させます。この工程により、陶器瓦と比べると製品の反りは少なく、高い精度で大量生産が可能になっています。
ただし、抄造法で成形される化粧スレートは陶器瓦のような立体的な防水構造を作りにくいため、防水は流れ方向の重なり量を多く取ることで確保します。流れ方向の働き寸法は製品の全流れ寸法の半分以上を重ねることで防水します。屋根下地上に最大で3枚製品を重ねることで雨水の浸入を防ぐ仕組みになっています。屋根材本体は専用のリング釘で屋根下地に固定します。
<金属屋根材(縦葺き/立平/瓦棒葺き)>
金属屋根材の素材は、薄板のメッキ鋼板とその表面塗料です。メッキには亜鉛メッキのほか、アルミと亜鉛の合金メッキ(いわゆるガルバリウム鋼板)などが使われます。ガルバリウム鋼板は、アルミニウム(Al)55%、亜鉛(Zn)43.4%、珪素(Si)1.6%の合金メッキで、JIS規格でも定義されています。従来の亜鉛メッキ鋼板は「トタン板」と呼ばれてきました。
屋根材として多く使われる薄板鋼板の厚みは0.35~0.4mm程度です。薄板鋼板はロール状のコイルで流通しており、工場や現場でロール成形することで長尺製品が製造できます。特に、近年住宅で採用が増えている縦葺き金属屋根材は、屋根の流れ長さに合わせて一枚物として成形することで、流れ方向に継ぎ目を作らない施工が可能です。
桁方向(横方向)には立ち上がり(ハゼ)を設け、屋根面より高い位置でジョイントを行うことで雨水の浸入を防ぐ構造になっています。流れ方向に継ぎ目が無いため、前述の戻り勾配が発生せず、屋根勾配と屋根材表面勾配が同一勾配になります。
3.屋根材毎の防水の特徴
ここまで見てきたように、屋根材毎に構造や素材が異なることで、防水の考え方や適した屋根勾配も変わってきます。代表的な屋根材ごとの特徴を整理します。
<陶器瓦>
陶器瓦は、流れ方向と桁方向の重なりと水返し構造により防水を行うため、重なり部分が多く、水返し構造と基材の厚みにより戻り勾配が大きくなります。また、瓦同士の間には隙間が多く、屋根勾配が緩くなると防水上の懸念が高まります。現在主流のF形陶器瓦では戻り勾配が1寸程度あり、屋根勾配としては4寸勾配以上が適しています。F形陶器瓦で緩勾配対応という商品も出ていますが、長期的な視点で考えると緩勾配屋根での使用はお勧めしません。
隙間を完全に埋めて“屋根材だけで雨を止める”という考え方ではなく、ある程度の雨水が屋根材の裏側に回り込むことを前提に、二次防水であるルーフィング(防水紙)で最終的な防水を確保する仕組みです。隙間が多い分、ルーフィング上に入った雨水は、晴天時に水蒸気となって瓦の隙間から外部へ抜けていくというメカニズムも働きます。
<化粧スレート(カラーベスト)>
化粧スレートは、水返しなどの立体構造を持たず、基本的には流れ方向の重ねだけで防水します。流れ方向の働き寸法が短いため、同じ屋根面積でも段数が多くなるのが特徴です。屋根材が薄く(約5~6mm)戻り勾配自体はそれほど大きくありませんが、5.2mmの厚さで働き長さが182mmの場合、戻り勾配は約0.3寸となります。
段数が多く、風を伴う雨の場合には雨水が屋根材の重なり部から浸入しやすくなるため、3.5寸以上の屋根勾配が適しているとされています。陶器瓦と同様、化粧スレートも二次防水のルーフィングを前提とした考え方で、屋根材のみで完全に雨を止めるという設計ではありません。
ただし、化粧スレートは屋根面とルーフィングの間の空間が小さく、密着しやすい構造のため、ルーフィング上に浸入した雨水が滞留しやすい点には注意が必要です。このため、緩い屋根勾配で使用すると、防水上のリスクが高くなります。屋根材メーカーのマニュアルでは、地域や流れ長さごとに適用勾配が細かく設定されていますので、緩勾配での使用時には必ず確認することが大切です。
<金属屋根材(縦葺き/立平/瓦棒葺き)>
縦葺き金属屋根材は、屋根の流れ長さと同じ長さで製品化することで、流れ方向に継ぎ目がなく、戻り勾配も発生しません。そのため、0.5寸勾配のような非常に緩い屋根勾配でも使用可能としている製品が多く、陸屋根の様な意匠を勾配屋根で実現できるのが特徴です。
一方で、表面が平滑で段差が少ないため、屋根勾配がきつくなると雨水が屋根材の上を高速で流れ、軒樋に水が入りきらず、外側へ飛び出してしまう「オーバーシュート」が発生することがあります。特に、急勾配+金属屋根+軒樋が小さい+強い雨という条件が重なると、雨水が樋を飛び越えてしまう不具合につながります。
このため、縦葺き金属屋根を採用する場合は、「緩勾配で使える」点だけでなく、「勾配をきつくし過ぎると別の不具合が出る」点も考慮することが重要です。
4.まとめ:雨から家を守る屋根選びのポイント
雨から家を守る屋根をつくるためには、次の3つのポイントを押さえておくことが大切です。
陶器瓦や化粧スレートを使用する場合は、緩い屋根勾配で使わない
陶器瓦や化粧スレートを使用する場合は屋根を住宅の意匠として見せるのがベター
縦葺き金属屋根では勾配屋根で陸屋根と同じような住宅意匠が出来る
縦葺き金属屋根を使用する場合は屋根勾配をきつくしたときに不具合が発生するケースがある
勾配屋根で使われる屋根材毎に防水の仕組みや特徴が異なります。この後編では、その屋根材の成り立ちから防水構造を考え、防水における特徴を解説しました。屋根材ごとの特徴を知ることは後悔しない屋根選びをする基本となります。このコラムでは防水をメインにして解説しましたが、他のコラムでは別の性能を切り口とした屋根選びのポイントをお伝えしていきます。
